信頼と背中:ある夜勤の現場から考えたこと。

ある夜勤の出来事

かつて私が所属していたのは
認知症の利用者さんが多いフロアでした。

こちらの夜勤は基本、2人の介護スタッフで行い、
2時間ずつ「1人で担当」の時間があります。
もう1人が仮眠を取るからです。

その日、新規の女性の利用者さんが入所されました。
初めての夜は、利用者さんもスタッフも超緊張します。
お互いドッキドキです。
(詳細は多少アレンジしてお伝えしますね)

 

さて消灯後、自分の仮眠が終わり、
もう1人のスタッフさん(男性)と交代しようとフロアへ出ると、
なにやら新規の利用者さんと、スタッフさんがもめています。

どうやらよく知らない男性に介助されたことで、
利用者さんが動揺してしまった、ということのようでした。
割とよくある光景です。

男性スタッフさんも、利用者さんも困っていて、
お互いコミュニケーションが一方通行な感じでした。

私が介入すると、利用者さんはほっとした様子で
表情も穏やかになっていきました。

 

献身と距離感

これ、出来事だけ聞くと、

①「やっぱり女性利用者さんは、女性スタッフが対応した方がいいのでは?」

②「この男性スタッフさんに比べて、熊谷さんの対応が上手だったのでは?」

と思うかもしれません。
この解釈も現場あるあるだと思います。

 

①については、ケースバイケースです。
最初は異性のスタッフを警戒していても、
コミュニケーションを重ねることで、
人間として信頼を寄せてくれるようになる方も大勢いらっしゃいます。

②については、全っっっ然そんなことはありません!
この時私は、特別な対応は何にもしていなくて、
普通に2人とお話した「だけ」です。

むしろ、この男性スタッフさんは、
それはそれは献身的な態度でした。

彼から事情を聞いたり、記録を読んだりして、
「ここまで細やかに気配り、気遣いしてくれたのか。ご苦労様だなぁ」
と思いました。
こりゃあ、私にもなかなか出来ないことだよ、と思ったぐらいです。

それなのに、利用者さんが不穏になってしまうなんて、
なんだか報われないですよねぇ。

 

では、私と男性スタッフさんの違いは何だったのか、考えてみました。
思い当たることはたった1つ、
距離感でした。

 

対人援助の現場では、
相手に何かを与えようという熱意や責任感が、
自分を追い越してしまうことがよくあります。
私もこれでしょっちゅう失敗していました。
(だから気づいたとも言えるw)

「献身的」という言葉が示すように、
文字通り「自分のことを顧みず、心身ともに捧げる」ほど
相手に尽くそうとしてしまうのです。

よかれと思ってのことなのですが、
そんな時、お互いの距離は物理的にも心理的にも
相当近いものになってしまっていることが多いのです。

いわゆる心の余裕と距離感って、
どうやら関係がありそうです。

 

自分の背中への信頼

アレクサンダーテクニークではよく、
「背中にいる」という言い方をします。(stay the back)

広い背中、柔らかくて厚みのある自分の背中を信頼して、
その背中と一緒にいてみよう、
というような意味です。
(ここでは、背中=胴体全体のことだと思って下さいね)

「心の余裕が大事なことは分かっているけど、
どうやったらその余裕が生まれるか分からない!」
という時は、

「目の前の相手」に何かを与えるのをちょっと待って、
「自分の背中と一緒にいてみよう」と考えてみて下さい。
ただ「あぁ、背中あったな」って思ってみるだけで十分です。

白ワンコ背中

背中のことを英語で「back=後ろ」と呼ぶのも
なんだか象徴的です。

そして誰かに何かを伝える時も、
背中と一緒にいながら伝えてみて下さい。

 

また「実験」として、

①ひたすら目の前の人に集中しながら会話する。

②「背中と一緒にいてみよう」と考えながら会話する。

2つのパターンで何か違いがあるか、
お友達や同僚の方と交代で試してみるのもおすすめです。
3人組になって「2人が会話し、1人が観察」もいいですね♪
真面目になり過ぎず、あくまで実験、遊び感覚でやってみてくださいね。

・ ・

 

そしてもうひとつ・・。
何かトラブルが起きた時、
現場を指導、管理する立場の方々は、
情報の外側・表面だけではなく、
様々な角度から見てみることをお願いしたいのです。

起きたことが、
単純な良い悪いで評価出来るものなのか?
善意や熱意が上手く伝わらなかったという面はなかったか?

 

実はこの時も、自分の背中とともにいることは役立ちます

「何が起きたのか?」、「悪いのは誰なのか?」と
「目の前の事象」の解明・結論を急ぐ前に、
背中とともにいて、そこから話を見聞きしてみるのです。
取りこぼしていた情報に、ふと気づくことがあるかもしれませんよ♪

 

見返りわんこ

 

利用者さんとスタッフ、上司と部下、ご家族とスタッフ、
現場での関係性は様々です。

まず「自分の背中を信頼する」ことが、
誰かと信頼関係を築いていくことの
役に立つかもしれません。

・ ・ ・

余談ですが、この男性スタッフさん、
後に「レクリエーションの達人」になります!

彼の行うレクは、
利用者さんたちを惹きつけ、とても盛り上がるようになりました。

それは彼が入職したばかりの頃は、
誰も想像し得なかった姿でした。

そう。
「ある一瞬の出来事」を切り取っただけでは、
人って見えてこないものなんですよね。

 

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