食事介助とエンドゲイナー

お食事

高齢者の介護施設の現場では、常に様々な業務が同時進行で並行的に行われています。
「食事介助」もそのひとつですね。

人生における楽しみのひとつでもある「ご飯」。
利用者さんには楽しんで、よく味わって食べて頂きたい気持ちは山々なのですが、
スタッフさんにとっては、常に安全に気を配りつつ、食事以外の業務も行っていて、
心理的にも物理的にも慌ただしい時間です。

介護職時代の私は、実は食事介助(食べることのお手伝い)がヘタでした。
利用者さんの食べるタイミングや、
利用者さんごとの、ちょうどいいひと口の量がつかめなかったことが、
主な原因だったと思います。

そして、もうひとつ私が「随分やらかしちゃってたなぁ」と
思っているのが「エンド・ゲイナー」です。
これはアレクサンダーテクニークで出てくる、ちょっと特殊な言い回しです。

 

エンド・ゲイナーとは?

「end-gaining」。

「end」はみなさんご存じの、終わり、結果、到達点、目的などを表す言
葉。
「gain」は、獲得する、得る、手に入れるといった意味です。

両者を合わせた造語が、end-gaining=エンド・ゲイニングで、
エンド・ゲインしちゃう人のことを「end-gainer=エンド・ゲイナー」
と呼んでいます。

エンド・ゲイニングは「結果至上主義」、「目的達成主義」と訳されることが多いです。
私は「建設的なプロセスを端折って、目的に突進すること」と生徒さんにお伝えすることが多いですね。
今回は恥を忍んで、私のバリバリのエンドゲイナーぶりをご披露します!

 

「エンド」しか見ていなかった。

さて、お食事タイム中の、たくさんの業務の到達点=「エンド」を思い出し
てみると・・。

・安全に、なるべく時間内に食べてもらうこと。
(業務を終わらせる意味だけではなく、食事に時間がかかり過ぎると
かえって利用者さんが疲れてしまうため)

・食事だけじゃなく、水分もたくさん摂ってもらうこと。

・今介助している利用者さん以外の方の、食の進みと安全も見守ること。
(異食・盗食・誤嚥がないか?)

・トイレや歯磨きに向かう利用者さんを、安全に誘導すること。
(転倒は高齢者の大敵!)

・食前食後の薬を、安全に確実に飲んでもらうこと。
(服薬の拒否や、吐き出してしまう場合もある)

実に実に、た~くさんのエンドがあります!
もちろん、1つ1つの目的を確実に達成することは全っく問題ありません。

注目したいのは、
その時の注意の向け方や、自分への指示の出し方・意図の持ち方(方向づけ=Direction)です。

私の場合はこんな感じでした。

●考えていたこと
・なんとか時間内に終わらせなきゃ。
・水分もっと摂ってくれないかなぁ?
・立った人が転ばないように気をつけなきゃ。
・立ってる人、立とうとしている人がいないか注意しなきゃ。
「なきゃ」が多いですね(笑)
いかにも「前のめり~」なトーンです。

 

●注意の向け方、空間の認知
食事介助している利用者さんをガン見
ジロジロというよりも、必死なあまり、お互いの間の「余白」みたいなものがない。
つまり心理的な距離がとっても近い!

全体の空間への意識の広がりがない
「私と、私が介助している利用者さん」、「今、立って移動している利用者さん」に対してのみ、
「そこだけ切り取ったかのような空間」がかろうじて生まれる程度。
それ以外の空間はほぼ抹殺です。

これは「見ていない」というよりも、
「自分の心身のスペースをすんごく狭めながら、
狭~いスペースから必死に目をこじ開けて見ている」という方が実態に近いと思います。

ブラインドからのぞく人

当然大事な大事な、頭―首―背中
ガッチガチに固まっていたに違いありません!
自分の身体のスペースが狭い時って大抵
「認知のスペース」も狭くなっているのです。
入ってくる情報の量や質も限定的になりがちです。

 

つまり、
「~しなきゃ」、「~しないようにしなきゃ」と
「エンドの達成」に必死になり過ぎてしまい
客観的に今、自分や周囲がどういう状況で、
そこからエンドまでを、どう建設的に進んで行ったらいいかの、
毎瞬毎瞬のプロセス
(判断材料、選択肢など)「見渡せていないドツボ状態」が、あの時の私だったのです!!

 

「まず自分」から始めよう!

このドツボ状態をどうやって脱したらいいか・・。
アレクサンダーテクニークで出来ることは「自分の使い方をよりよくすること」、
これに尽きます。
「意図を持つ」・「注意を向ける」ことを使って、自分に働きかけてみましょう!

 

1:まず、この空間に居る自分の使い方から始めましょう。
(ここで言う「背中」とは、背骨を中心とした胴体全体のことです。)

風船ひとつ

・この空間に「自分全体が居るよね」ってことを思い出してみます。

・頭-首-背中と手足を含めた全体が、お互い有機的につながり合っているよね。

頭-首-背中のつながりの中で、首は固めなくてよかったよね?

・首が自由になると、頭は首から前と上に離れていくことが出来るよね 。
(頭は首、胴体にめりこまなくていいよ)

・背中は長くて広くてよかったよね。

・全部の骨と骨の間にスペースがあって、いつでも動きたい時に動けるよ。
(全部の骨の中にも、全部の細胞の中にもスペースがあるよ、も有効ですね)

私は上と下、両方の方向に向かい続けることが出来るよ~。
(体重が足から地面に流れて行って下へ向かうことも、
地面からのサポートがあって上に向かうことも出来るよ。豆苗たちのように。)

と自分に呼びかけてみます。

* *

2:次は、自分の外側の空間にも注意を向けていきましょう。
考えるだけ注意を向けるだけで身体には指示、意図が伝わっていきま
す。

・自分の頭の上にも空間がたくさんあったなぁ。
(天井の上にも空があったりするしね。)

・背中の後ろ側にも空間があるよね。
(この部屋意外と広かったよね~とか)

・自分の横にも広ーいスペースがあるよね。
(そう言えば色んな音が聞こえてるなーとか)

・もちろん自分の前にも空間が広がっているよね。

 

* *

 

3:そして、目の前の利用者さんと一緒に居る時の、自分の使い方も考えてみましょうか?

風船ふたつ

・私と利用者さんの間にも、結構空間があったよね?

・私に、頭―首―背中のつながりがあるように、
利用者さんにも頭―首―背中のつながりがあるよね。

・がんばって見ようとしなくても、
利用者さんの頭-首-背中そして全~体は、視界に入ってるよね。

・ ・

ドタバタの現場なので、
もちろんこれら全部を思い出せなくても大丈夫です。

・首は固めなくてよかったよね?
・自分の周りにたくさん空間あったなぁ。

これを思い出すだけでも、
その場に居る時のクオリティは随分変わってくるんじゃないかなと思います。

そして「今、出来てるか出来てないか?」をチェックするよりも、淡々と必要な指示を自分に呼びかけていく方がいいと思います。
チェックしようとすると、かえって自分が固まっていくからです。

 

関わり方の質が変わっていく

まず自分から始める

介護の現場に限らず、
目の前の誰かと一緒に居る時、
自分をギューっと固めていると、恐らく相手もギューっとなっています。

「首が自由」そして「頭が前と上へ」の方向性は、
嚥下の機能的にも理にかなっていることは、現場にいらっしゃる方なら、きっとお分かりだと思います。

 

そして食事のお手伝いをする時、
利用者さんに「食事のための正しい姿勢」になってもらおうとやっきになる前に、
まず自分の首が自由であることを、
「首は固めなくても大丈夫だよ」そして
「頭が前と上に離れていけるよ」という言葉を自分自身にかけてあげることを、
私はおすすめしたいと思います。

そこから利用者さんに
声をかけたリ、お手伝いしたりする方が、きっと伝わりやすいと思います。

 

私たちアレクサンダーテクニーク教師も、
生徒さんの身体に触れる前に、
まず自分自身に働きかけています。
自分の頭-首-背中のつながり、そして全体に。

それから「生徒さんにも同じこと考えて欲しいな」と思いながら
触れていきます。

相手を「動かそう」とするのではなく、「意図の伝達」をするって感じでしょうか。

自分との関わり方が変わっていくと、
人との関わり方、
物事との関わり方の質も
きっと変わっていくと思います。

私を反面教師にして、
現場のみなさんが、どうか建設的にのびやかにエンドへ向かえますように。

はい、お花

 

 

 

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